「メイドインアビス」は、緻密な世界観と過酷な冒険描写で高い評価を得ているダークファンタジー作品です。その中でも「黎明卿(れいめいけい)」ことボンドルドは、作品を象徴する存在のひとりといえるでしょう。仮面に覆われた紳士的な探窟家でありながら、残酷な実験を平然と行う冷徹な研究者として描かれ、視聴者に強烈な印象を与えています。
本記事では、ボンドルドの素顔や正体の秘密、名言に込められた意味、さらには物語における役割について解説し、その魅力と恐怖の両面を探っていきます。
ボンドルドとは?
ボンドルド卿(黎明卿)は、『メイドインアビス』に登場する特級遺物の使い手であり、アビス五層を拠点とする伝説的探窟家のひとりです。彼は常に仮面と礼装を身にまとい、丁寧で紳士的な口調を崩さない一方、その裏では人体実験や禁忌的研究を繰り返す冷酷な科学者として描かれています。
物語中では「イドフロント」という拠点を構え、アビスの呪いや祝福に関する研究を進めています。その過程で「カートリッジ」と呼ばれる技術を用い、他者に負荷を肩代わりさせる非人道的な実験を実施。これにより彼は「黎明卿」と呼ばれ、尊敬と恐怖の両方を集める存在となっています。
正体と目的
彼の正体は、五層を拠点にアビスの呪いと祝福の機序を解き、到達可能性を最大化しようとする研究者です。上昇負荷を他者に肩代わりさせる装置や「カートリッジ」など、倫理線を越える技術を次々に実装し、「より多くの探窟家を深淵へ導くための必要な投資」と主張しています。
個の痛みを総体の利益で上書きし、失敗の犠牲さえ成功確率を上げるデータとみなすような徹底した功利主義が、彼の恐ろしさであり同時に魅力だともいえます。
主要なエピソード
五層の拠点イドフロントで描かれるのは、ボンドルドの研究の核心部分です。ここでナナチやミーティに対して行われた非人道的な実験が明らかになり、彼の思想が科学的進歩という名の下でいかに倫理を踏み越えているかが示されます。さらに物語の大きな転換点として、娘と呼ぶ存在プルシュカを巡る決断があります。ボンドルドは父としての愛情を示しつつも、それすらも「深淵への到達」を優先させるための手段として扱い、個を超越した愛の形を浮き彫りにします。結果としてプルシュカの存在は主人公たちに旅の新たな鍵を与え、物語は深層へと進むことになります。
娘のプルシュカとカートリッジとの関係
ボンドルドが娘として育てたプルシュカという少女は、純粋で仲間思いの子でしたが、同時に彼の研究における重要な存在でもありました。ボンドルドは深淵への到達を目的に、アビスの呪いを肩代わりさせる非人道的装置「カートリッジ」を開発します。その技術は人間を容器化し犠牲にすることで成立しており、倫理を超えた残酷さを持っていました。
最終的にプルシュカ自身も父の理念のもと犠牲となり、白笛として主人公たちの旅を支える存在へと変じます。この展開は愛と犠牲のねじれた関係を強烈に描き出し、ボンドルドという人物像の本質を端的に示しています。
彼の素顔と本質
ボンドルドは常に仮面をまとい、その素顔は物語の中でも一切明かされません。仮面は単なる外見の隠蔽ではなく、彼の本質を象徴する装置のような存在です。作中では特級遺物「ゾアホリック」によって人格や記憶を別の肉体へと継承できるため、「誰がボンドルドなのか」ではなく「理念を継ぐ者こそがボンドルド」という構図が成立しています。
つまり彼は個人ではなく「システム」として存在し、ボンドルドの素顔という肉体的な側面よりも思想そのものが本質といえます。
ボンドルドの名言
彼は『メイドインアビス』で冷徹さと礼節を同時に体現する悪役として描かれ、その名言は強烈な印象を残します。代表的なものに「実にすばらしい」「感動的だ」といった称賛の言葉がありますが、それはしばしば非人道的な実験や犠牲を肯定する文脈で用いられ、成果のためにすべてを美名で包み込む姿勢を象徴しています。
また「あなたの勇気に敬意を」と敵にさえ礼を尽くす態度は、彼を単なる悪役ではなく思想的に対話可能な強敵へと昇華させています。
プルシュカにまつわる名セリフ
五層のプルシュカにまつわる場面では「プルシュカがこぼれちゃう」という衝撃的な場面があります。このセリフはボンドルドによる非人道的な実験の結果、プルシュカが“カートリッジ”として犠牲となり、最終的に白笛へと変じてしまう過程で描かれるものです。
この言葉は、彼女自身の無垢さと悲惨な運命を同時に示すものであり、観る者に強烈な悲しみと衝撃を与えます。その背景には、プルシュカが父と慕ったボンドルドへの純粋な愛情があり、彼女の言葉はその信頼と献身の象徴でもあります。声優の熱演もあり、このシーンはメイドインアビスのハイライトともいえる場面であるといえるでしょう。
ボンドルドの魅力
ボンドルドはメイドインアビスの作中でも人気を博しており、その大きな魅力には、紳士的な雰囲気に対して見え隠れする狂気が挙げられます。自身の研究のためなら娘として育てていた子供でさえ研究材料として手をかける非情さが、いわゆるマッドサイエンティスト的なキャラに魅力を与えています。
また彼は倒された後も、「成果のために犠牲は許されるか」「進歩に必要な代償とは何か」といった問いを残します。彼は悪役でありながら、視聴者に思考を促す哲学的な試金石であり、その存在感は物語を超えて語り継がれるものとなっています。
まとめ
ボンドルドは作中では悪役の素顔を見せながら、単なる冷酷さだけでは語れない奥行きを持つ存在です。紳士的な言葉遣いと礼節を重んじる態度の裏で、平然と非人道的な実験を行い、それを「必要な投資」として正当化する姿勢は、視聴者に強烈な恐怖と同時に知的な魅力を感じさせます。
加えてプルシュカとの関係に代表される歪んだ愛情表現は、彼が冷血漢である一方で人間的な感情を持ち合わせていることを示し、物語を一層深く印象づけます。
彼の名言や思想は、進歩と犠牲の関係、そして倫理を超えた探究の意味を問いかけ、物語を超えて読む者の心に残り続けます。